最近話題になっているスターンのルービニ教授の発言について書いてある「予見された経済危機」を読んでみた。ルービニ教授の授業を私は受けたことがなかったので、彼が話題になるまで、そしてこの本が上市されるまでは彼の名を知らずにいた。私の同期では授業を受けた同級生によると、そのときにはここまでの「予言」らしいことではなく、あくまでも実際に90年代におこった経済危機を事例として何が悪かったのかをアメリカの実際の経済の見方を交えながらマクロ経済の講義をしていたとのこと。
ルービニ教授履歴
http://pages.stern.nyu.edu/~nroubini/cv2.htmルービニ教授リンク
http://pages.stern.nyu.edu/~nroubini/ルービニ教授ブログ(RGE Monitor)
http://www.rgemonitor.com/blog/roubini
Book
さて、本の内容は簡単にいうと、06年好況に沸くアメリカにいながら、米国の厳しいリセッション入りが近いことを提唱し続けていた唯一の存在としてのルービニ教授を「予言者」としてそのロジックを説明している。だいたいこういう弱気論者は好景気のときにも一人や二人いるものだという考え方もあることは筆者(倉都康行氏)も了解しているが、エコノミスト自体も政府からお金をなんらかの形でもらって生きている人が多いので、好景気のなかでは弱気論を警鐘しにくいという構造的な問題もあるようだ。筆者の説明にもあるように、当時からの米国経済ハードランディング説に数学的モデルを使って細かく説明してあるわけではない。むしろそのモデル信仰を否定し、アナロジーで説明している。教授は「不動産」「金融政策」「原油」の動向を見ることで厳しいリセッション入りを予想した。詳しくは内容を読んでいただきたいと思うが、さらに双子の赤字の内容が変わってきたこと、そしてシャドーバンキングなる存在がこのリセッションを深めた点として指摘しているところもわかりやすい。あえて言うとすると、このアナロジーを説明するチャートや、裏づけとなる統計が付記としてあればなおわかりやすいのにと思う。
Opinion
個人的には、大学時代の経済原論、スターンでのマクロ経済学を思い出して、不況であろうが、好況であろうがその原理を見失わないということの重要性を教えられたような気がする。モデルまたはアナロジーでの経済予測のどちらが正しいかというエコノミストの論争に加わるほどの知見はないが、一般的に会社勤めをしている人(経営トップの方を含む−私がイメージしているのは、コンサルタントとしての自分のクライアント)にとっては、このルービニ教授のロジックはわかりやすい。ついつい自分の仕事では、その会社のおかれている市場だけや、その会社が向いている顧客層のみに考えが行きがちだが、上司からはマクロ的動きや統計を忘れるなといわれることが多い。改めてマクロを見失うことがないようにという警鐘になる本のような気がする。彼の予言の評価はそれとして、今回の金融危機のロジックを簡単に理解するための本としてもお薦めだと思う。いずれにしてもスターンの教授の一人がこういう形で日本でも注目されるのは嬉しい限り。今後の教授の発言もフォローしていきたい。
(Class of 2007 K.O)