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【インタビュー】スターンスクール ダモダラン教授に聞く
stern2002-01-12 (14488)

NYU SCHOOL 教授

今回は、スターンスクールの看板教授の1人であるダモダラン教授の登場。昨年11月に東洋経済新報社より、著書「Applied Corporate Finance A User's manual」が翻訳出版された。ダモダラン教授の「コーポレートファイナンス」は取らない学生が珍しいほどの超人気授業。その明快かつ簡潔な内容とエネルギッシュな講義は、ケチのつけようがない完成度である。「Applied Corporate Finance」はその授業の教科書であり、その内容は教授のWebサイト(http://www.stern.nyu.edu/~adamodar/)に完全に公開されている。


Q、「Applied Corporate Finance A User's manual」の日本語版、「コーポレート・ファイナンス 戦略と応用」が出版されましたが、本の趣旨を簡単にご説明いただけますか?

趣旨は「企業価値の最大化という目的のために企業が行う意思決定」です。
意思決定のプロセスは3点あります。1点めは投資決定方法、2点めは資金調達決定方法、3点めが配当決定方法です。先ず、投資決定に関してはハードルレートを確認し、それ以上のリターンを生み出すプロジェクトに投資すること。資金調達の方法としては、株式が最適なのか、もしくは債券が適しているのかと言った観点から述べています。配当決定に関しては、ハードルレートを超えるリターンを生み出すプロジェクトが無い場合、企業の余剰キャッシュは株主のものであり、配当として還元されるべきという観点から、その方法について述べています。
私は理論だけではなく、実在する企業を例として出し、上記3点をより実務的に説明することを試みました。企業としては、1.ディズニー、2.ブックスケープ・ブックス、3.アラクルーズ・セルロース社、4.ドイチェバンクの4社を採用しました。4社は規模、業種、国籍も全く異なる企業ですが、読者のみなさんは、どの企業も表面的には非常に異なっているように見えても、本質的には非常に似通った問題に直面していることに驚かれることと思います。

Q、この本の想定読者層はどのような方々でしょうか?

私は全ての層の方々にこの本を手にとってほしいと思っています。と言うのは、コーポレートファイナンスはある特別な人々の間でのみ理解されるべきものではなく、全ての人々に関わってくる理論だからです。
もちろん、この本を最初に手にされるのは、おそらくバンカーなどのようなコーポレートファイナンスを職業とされている方々でしょう。次いで企業の重役または起業家のような方々が興味を示されることでしょう。こういった方々は適切な判断、質問、雑多な問題を解決する為にこの知識を必要とするからです。しかし、第3のターゲット層として、私は、人事、マーケッティング担当など、普段コーポレートファイナンスと自分の業務は関連が無いと思っていらっしゃる方々にこそ是非この本を読んでいただきたいと思っています。企業がいかに投資し、資金調達し、また収益の一部を株主に還元するかと言うことは、企業に勤める全ての人々に関わってくることです。私はこの第3の人々がコーポレートファイナンスを理解する事で、コーポレートファインスがいかに自分の仕事に役立つか、いかに自分をより良いマーケター、もしくはリクルーターにするかと言う事を考えていただきたいと思っています。

Q、この本を書かれるにあたり特に苦労した点、または気を付けられた点はありますか?

各章全てに注意と熱意を払い執筆したので、どこか一部分に特別苦労したということはありません。ただ、1章から12章まですべてが「企業価値の最大化」という本の趣旨をサポートするように流れを作る点には留意しました。1章1章は異なったトピックスを深く掘り下げているので、読者は各論に埋もれてしまう危険性があります。ですから、必ず章頭には私が言うところのビックピクチャー(フレームワーク)を示し、このビックピクチャーのなかで、当該章がどの部分に該当するのかと言う事を示すよう心がけました。

Q、「Applied Corporate Finance」は日本語の他に、中国語、イタリア語、ポルトガル語に翻訳されていますが、それぞれの読者から、アメリカ国内の読者とは違った反応や質問というものは寄せらていますか?

特別違った反応が寄せられたということはありません。やはりどの国においてもコーポレートファイナンスはコーポレートファイナンスであり、不変の原理だということだと思います。国々の事情による違いを踏まえても、驚くほどコーポレートファインナスの本質は類似していると思います。

Q、しかし、日本の企業の場合、情報開示のレベルや市場の成熟度から言って、教授の理論を適応することが難しい事があるのも事実だと思います。これはコーポレートファインナンスから、教授のもう一つの専門分野であるバリュエーションにも絡んでくる質問だと思いますが、この点はいかがお考えですか?

確かにそういったことはあるでしょう。しかし、それはその国の情報開示方法や、会計基準などに問題があるのであって、コーポレートファイナンスの原理そのものを否定することにはならないと私は考えています。日本の場合は情報開示などの問題により、企業のマネージメント側には居心地の良い、また投資家にとっては不幸な状態が続いていたと思います。投資家にとっては、企業がハードルレート以下の投資をしていてもそれをチェックし正す機会が奪われていましたし、またマネージメントはそのような非採算的な投資をしていても、それを咎められることなくきたわけです。しかし、コーポレートファイナンスの理論によると、こういった行動は必ず結果(企業価値の喪失)を伴うもので、何人もそれから逃れられるものではありません。

Q、教授はDCF(Discounted Cash Flow/割引キャッシュフロー)バリュエーションに力点を置いた授業をされていますが、実務ではDCFバリュエーションはほとんど使用されていません。理論を実践にと言う教授の期待を必ずしも満足している状況ではないのですが、この点はどう思われますか?

ウォールストリートでDCFがあまり使用されていない点について、私はその理由が理解できます。株のリサーチは非常にスピードが要求される業務であり、ニュースや市場の期待度といった事に即座に反応する必要があります。DCFは相対価値基準と比較すると、複雑でかつ予想数値の数も多いものです。ですから、証券アナリストが市場のニーズに応える為によりスピーディに答えの出せる相対価値基準に傾倒することは理解できます。

Q、しかし、教授はインターネットバブルがはじける前、「現在の株価はDCFバリュエーションでは説明が付かない。」とおっしゃられていました。結果的にはインターネットバブルがはじけて、株価は大幅に調整されました。この事からも、教授がおっしゃるDCFバリュエーションの重要性、優位性が証明されたのではないですか?

証明と言うのは非常に強い意味合いを持った言葉ですね。私は私の理論が正しかったと言うよりも、企業の実態を反映していない見かけの企業価値は長続きしないということだと思います。株価はバブルと調整を繰り返します。どの時点の株価が正しい株価かということは分からないことです。しかし、企業価値の創造は企業がハードルレートより高いプロジェクトに投資し、それをうまくファイナンスし、適切に株主に還元することでのみもたらされるものだと思います。私の言う企業価値の最大化は、株価の最大化とは異なっているのです。株価はニュース、期待、モーメンタムでも動きます。しかし、企業価値はそんなものでは動きません。企業価値は私の言うところの「原理」で動くのです。

Q、日本はここ10年ほどでキャッシュフロー経営、リアルオプションなど米国流の考え方が浸透してきました。米国は日本よりファイナンスの分野で進んでいると思うのですが、米国経験を生かして、日本企業にアドバイスしていただけることはありますか?

例えばリアルオプションに付いては、米国でも長期間話題には上がっているが実務上でそれを上手く活用していると言う段階ではない為、この分野は米国よりむしろ、日本企業の方が進んでいるのではないかと思っています。例えば1980年代に日本企業は通常のコーポレートファイナンスでは正当化出来ないプロジェクトに投資し、成功した事例があるからです。私の目からは、日本企業がそう意識していたか、していないかは別問題として、彼らはリアルオプションを購入していたと思います。私が彼らにアドバイス出来ることがあるとすれば、それは「リアルオプションを過大評価しすぎないこと。」です。リアルオプションは適正価格で購入してこそ意味を持つものです。日本企業は適正価格以上の金額で購入し、失敗することが多いように思います。

Q、教授は何度もスターンスクールのベストプロフェッサーに選ばれ、その授業の分かりやすさ、プレゼンテーションの素晴らしさに多くの生徒が感銘を受けているのですが、プレゼンテーションを成功させる極意は何ですか?

強い興味、エネルギー、同調の3点です。非常に簡単に聞こえますが、先ずテーマに強い興味を持ち、伝たいというエネルギーが無ければなりません。また、常に聴衆の立場に立って彼らのファイナンスに関する理解度、彼らは経営者かそれともバンカーかなど、聴衆の立場に立ち同調することが大切だと思います。

Q、教授の投資方針をお聞かせ下さい。

長期投資を心がけ、ニュースに惑わされないことです。

Q、最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

"Hang  on There!"(しっかりしがみ付いて!) いま、日本の人々は延々と続く上り坂を登っているような、もしくは、出口の無いトンネルに入り込んでしまったような気持ちになっていることでしょう。日本はもしかしたら一度マーケットをクラッシュさせ、そこから再生したほうが、短期間非常に悪い時期があるものの、現在のように問題を少しずつ解決しようとし、問題を長引かせた状態よりもましだったかも知れません。しかし、夜明けの来ない朝はありません。ぜひ頑張って下さい。

今日はどうもありがとうございました。


ダモダラン教授はクリスマス休暇中にもかかわらずお時間を取っていただき、いつもの飾らない姿でインタビューを受けていただきました。あれだけの数の生徒を抱えていながら、私の顔を見て即座に名前を思い出すところなど、さすがダモダラン教授だと思いました。オフィースは最新のマッキントッシュと大型TFT モニターが設置され、更にパワーアップされた感じです。いつもの通り、簡潔で理路整然としたお答えで、インタビューもスムースに進みました。日本での講演についても非常に前向きなご発言をいただきました。是非実現させたいものです。(by S. A. H., 2000 Stern MBA, in NY )


コーポレート・ファイナンス 戦略と応用


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