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【インタビュー】早稲田大学大学院ファイナンス研究科大村教授に聞く
stern2009-03-04 (13163)

本日は早稲田大学大学院ファイナンス研究科の大村敬一教授にお話を伺います。大村教授は2006年から2年間にわたり、NYU Sternの日米経済研究センター(The Center for Japan-U.S. Business and Economic Studies)に客員として赴任されていらっしゃいました。両国のビジネススクール事情に詳しい大村教授にNYU Sternの強み、両国のMBAの違い等を伺いました。

(聞き手)NYU Sternの強みについて、教授の立場からどのように見られていますか
(大村教授)Sternの最大の強みは、ニューヨークという世界最大の金融マーケットのなかで学んでMBAを取得できるということではないでしょうか。これは実務に精通する講師を集めやすいという利点があります。実務経験のない教授陣はどうしても基本から体系的に教えようとしますが、往々にしてビジネス教育では退屈なものになりがちです。どうしてその内容を学ぶべきなのか、学ぶことが何に役立つのかなど、学ぶインセンティブを学生に与えなければなりません。そういう意味では、実際に理論や技術を実践している講師のほうが説得力をもっています。また、エキスパートを連れてきて授業の時間に部分的に協力してもらったりもできます。例えば有名なトレーダーからは本を読むのとは違う実務的な視点から「こつ」のようなものを学ぶことができます。問題意識のある人であれば「目からウロコ」を感じる瞬間があるかもしれません。NYU Sternにはそのような生きたロールモデルに会えるところにも強みがあります。
 また、スクール自体が実際のマーケットに近い感覚を持っていることも強みだと思います。例えば、私は以前、ボストンのトップビジネススクールにも2年ほど滞在しましたが、ニューヨークから飛行機でたった1時間の距離にもかかわらず、マーケットに鈍い部分がありました。NYU Sternはマーケットの中心にあり、カレントなテーマやコンテンツに事欠きません。コンテンツを構成づけ、(意味ある)中身にすることが必要で、これを独自に維持してきたことがNYU Sternの強みだと思います。現場に直結しているということは、教える側にとってのインセンティブも違います。
 NYU Sternは、実は早稲田ファイナンス大学院(MBA)の見本になっています。1986年に留学したとき、当時はトリニティーチャーチの近く、取引所の横にありました−ビル1棟だけでした−が、マーケットで働く人も含めてプロフェッショナルを育てるビジネススクールだということを実感しました。ビジネススクールはもともとプロフェッショナルを育てるというニーズから生まれたものですが、その意味で、NYU Sternはその存在感をもっています。

(聞き手)日本と米国の両方のビジネススクールをご覧になっている大村先生から、各々の長所、短所は何だと思われますか
(大村教授)教えるべき内容=BOK:Body of Knowledgeは、(グローバルに)標準化されつつあり、どこでも差がなくなりつつあります。以前、欧州や日本のビジネススクールと本場米国でのそれとでは大きな差がありましたが、今はほとんど差がなくなりつつあります。つまり、学びたい意識があればどこでもコンテンツは同じになりつつあるということです。そうするとどこに違いがあるのかとなりますが、やはり伝え方の違いが重要なのだと思います。どのように抑揚(価値観)をつけて教えるかは教える人で差が出てきます。牧師だって、聖書(というBOK)は共通なのに、説得力がある人とない人がいるのと同じです。また、学ぶ仲間とインフラも重要です。人間は一人で勉強するのはなかなか難しい。横で一生懸命勉強している人がいるから、自分も一生懸命勉強したりするものです。国内のMBAであっても多様な業種の方と一緒に学ぶことは、生徒にとって大変有益です。さらに、これが海外のMBAですと、多様な業種に加えて多様な文化を背景にもつ人間と一緒に勉強することになる。これは大変有意義なことだと思います。

(聞き手)これからMBAにApplyする皆さんにとって学校を選ぶためのポイントを何だと思われますか
 (大村教授)ビジネススクールは、マニアタイプの人よりも、いろんなことに関心をもって積極的で、行動的な人に向いていると思います。いろいろなことを学べますが細かい内容を学ぶところではありません。MBAもひとつのキャリアパスとして偏差値が高いところがいいというイメージがあったりしますが、実はそういう体裁や格好よりも、卒業後のキャリアに役立つ学びが得られるところを選ぶべきでしょう。たとえば、起業をめざす人に向いているスクール、金融工学を学ぶ上で優れているスクールなどそれぞれ特徴があります。また、特定の目的が定まっていない人にとっても、共通な利点はそのあとのキャリア形成にポジティブなところです。これからMBAを目指す方にはとにかく、まず入りなさいと言いたい。日本でいう東大のような王道はないと思います。ビジネススクールで得られた知識や価値観を、MBA後のキャリアでどう生かすかのほうが重要です。(私の生徒で)ビジネススクールに行ったことで大化けした人もいます。皆さんも夢を描いてMBAを目指して欲しいと思います。

(聞き手)今後のNYU Sternの可能性についてお聞かせください
やはり、キャピタルマーケットのなかにあるということにNYU Sternの存在意義があるので、米国が現在の金融危機を乗り越えられるかというのはその評価を占う上で注目すべき点でしょう。金融危機の局面では、ファイナンスに強みを持つビジネススクールの評価は一時的に低下する可能性もあります。近年では、ビジネススクールにおけるファイナンスへの需要を支えていたのは投資銀行やヘッジファンドへの就職機会でしたから、Sternの評価も高まりました。今回のような危機は循環的なものですが、やはりビジネススクールに影響します。不況にはビジネススクールへの応募は増加する傾向があり、今回の金融危機でも同様ですが、この金融破綻の結果、伝統的・総合的なビジネススクールのほうがファイナンス系のビジネススクールより人気が高くなる傾向にあると思います。その意味では、NYUSternの相対評価には不利かもしれません。ニューヨーク(マンハッタン)はいまこそマネーセンターとしての機能をむしろ強化すべきときでしょうが、米国政府は危機を契機に規制を強化してマンハッタンの機能を縮小させる可能性があります。(私は)ニューヨークはむしろ金融都市としてもっとアイデンティティを際立たせたほうがよいくらいに思っていますが、当面の状況はネガティブかもしれません。しかし、中長期的には金融自体の機能がなくなることはなく、金融知識は今後も多様化する形で広がっていくでしょう。金融はどこにでも形を変えてあたかも水とか空気とかのように自由に広がっていきます。金融が機能しなくなったのではなく、いまはめ込まれている鋳型(システム)が破綻しただけです。これまでの金融ビジネスモデルやシステムが通用しなくなっているだけです。ファイナンスを勉強することは今後、金融業界だけでなく、事業会社においてこそもっと役に立つと思います。そのなかでNYU Sternの人材輩出の機能は不変だと期待しています。(NYU SternのMBAを目指す方には)いま自分の弱い筋肉を鍛えて、多様なビジネスに羽ばたいていってほしいと思います。

(聞き手)本日はありがとうございました。

(聞き手 福田裕之・小野圭史 (Class of 2007) インタビューは2/27 早稲田大学大学院ファイナンス科日本橋キャンパスにて行われました)

大村敬一早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
(ご経歴)
慶應義塾大学商学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程、経済学博士(法政大学)
マサチューセッツ工科大学スローンスクール客員研究員(日米友好基金)、ミシガン大学ビジネススクール客員研究員、法政大学経済学部教授、早稲田大学商学部教授等を経て現職
早稲田大学大学院ファイナンス研究科開設準備室室長、同研究科長、証券アナリスト試験委員/カリキュラム委員長、大蔵省財務総合政策研究所特別研究官、内閣府官房審議官、公認会計士試験委員、日本ファイナンス学会会長、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネス客員研究員等を歴任


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