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三駄寛之
大和証券SBキャピタルマーケッツ(株)
金融商品開発部
セールスエンジニアリング課
次長
金融市場は市場参加者の将来への見通し、期待が反映されますから、世の中の新たな流れを先取りしていろいろな動きが起こります。
過去10年間、日本の金融市場はバブル崩壊の負の遺産をしょって低迷を続けてきましたが、ここにきて新たな胎動を感じさせる動きも出てきております。金融市場に携わる者として、金融市場や私の回りで起きている出来事からそんな日本の社会、経済や企業経営への新しい動きを紹介できたらと思っています。
売れない時代に売る智慧
依然消費は低迷が続いている。東京都の消費者物価は14ヶ月連続の下落となっており、物価下落の流れは未だ留まるところがない。前回、消費が低迷しているなかでユニクロや高級ブランド店の話をしたが、このような成功例はごくわずかで、魅力のある商品を開発、販売することは容易ではない。
「エスキモーに氷を売る」(Jon Spoelstra, 中道暁子訳、きこ書房)という本を最近読んた。まさか、エスキモーに本当に氷を売るという話ではないが、要はいかに魅力のない商品を売るかということで、NBAのニュージャージー・ネッツの話が紹介されている。もともと他のNBAバスケットボールチームの社長であった筆者が、91年にそれまで観客動員数最下位であったニュージャージー・ネッツの社長として迎えられ、チームのチケット収入を大幅に伸ばすまでのチャレンジを独自のマーケティングの手法に当てはめて平易に解説している。
STERNの卒業生であれば、ネッツがどんなチームであったか想像がつくのではないだろうか。特出したスタープレーヤーもいなく、成績も東部地区で下位にありプレーオフには顔を出すことがないチームであった。また、ニューヨークという大都市のすぐ近くに拠点を持つことが逆にニューヨークニックスのような人気チームの陰に隠れてしまい、際立った印象のないチームであった。
筆者はそのような人気のないチームのゲーム(氷)が観客(エスキモー)にとって魅力のないものであることを認識して、魅力あるエスキモーが買いたいと思うようにさせるために、対戦相手の人気を逆手にとって人気チームとの対戦ゲームをパッケージにして販売したり、社員から様々なアイデアを出してもらうためにミスに対してボーナスを出したりと、商品の魅力を向上するために様々な試みを行っている。筆者はマーケティングの原則として、自分が誰かを見誤らないこと、既存顧客の購入頻度を高めること、小さな実験から変化をつくること、経営が厳しい時こそセールスを増やす等17の原則をあげて、売れないものを売るためにはどうしたらいいかについて重要な示唆を与えてくれている。
普通のマーケティングの担当者であれば、「自社の商品が魅力がないから売れない。競合他社よりも良いものを作ればもっと売れる。」と、売れないのは商品が悪いからだ不満を言いたくなる。確かに商品が消費者からとって魅力的でなければ売れないのは真であるが、画期的な新商品が次から次からでてくることはありえない。また、商品の魅力を十分に顧客に認知されていなかったり、適切な顧客に適切にセールスされていないことで売れていないこともある。物が売れない時代だからこそ、マーケティングの巧拙が重要な意味を持つことになる。
マーケティングに携わる方には週末の一読をお勧めする。売れない時代に売る智慧が見つかるかもしれない。