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マーケットは語る(三駄寛之の独り言) 2.株式市場は経済の鏡
stern2000-11-12 (3402)

三駄寛之
大和証券SBキャピタルマーケッツ(株)
金融商品開発部
セールスエンジニアリング課
次長

金融市場は市場参加者の将来への見通し、期待が反映されますから、世の中の新たな流れを先取りしていろいろな動きが起こります。
過去10年間、日本の金融市場はバブル崩壊の負の遺産をしょって低迷を続けてきましたが、ここにきて新たな胎動を感じさせる動きも出てきております。金融市場に携わる者として、金融市場や私の回りで起きている出来事からそんな日本の社会、経済や企業経営への新しい動きを紹介できたらと思っています。

株式市場は経済の鏡

11月初めの三連休に新宿へ行って新鮮に感じたことが2つある。
1つ目はユニクロの前に数十人の行列ができていて、入場制限をするほどの盛況であったこと。
2つ目はルイ・ヴィトンのショップが大勢の人であふれかえっていて、かなりの商品が売り切れになっていたこと。

ユニクロを初めとする低価格アパレルの快進撃、一方でブランド等の高額商品の販売が伸びていることは報道で知ってはいたものの、やはりその光景を目の当たりにすると驚嘆の念を抱かざるをえない。消費不況なんて本当だろうかと考えさせられる。既存の概念にとらわれることなく消費行動の変化に機敏に対応する様は流通の世界の構造改革をもたらしている。

製造業でも構造改革への取組みが成果をあげはじめている。昨年まで大幅な赤字で経営の危機にあった日産自動車はルノーと提携、工場閉鎖、人員カットといった果敢なリストラと部品価格のコストダウンでわずか1年で今期利益2500億円を見込むまでになった。経営者が変わってトップダウンで改革を行った結果、まだ途上とはいえこれだけの結果を出すとはどれくらいの人が予想していただろうか。

金融機関はどうだろうか。一昨年の銀行への公的資金導入後、信用不安は遠ざかったが、依然不良債権の処理に追われている。特に今年はこれまで “Too big to fail”ということで先送りされ、顕在化していなかった大手のゼネコン、百貨店への不良債権の処理が債権放棄或いは民事再生法申請といった形で進んだ。また、体力強化のための銀行同士の連携が進み、大手銀行は4グループに収斂されることになる。高水準の業務純益を不良債権処理に当てている状況は変わらないが、このままでは市場から淘汰されるとの危機感が変革を急がせている。

同じ金融の中でも生命保険業界はより厳しい状況が続いている。今年に入って生命保険会社が次々に破綻に追い込まれた。長期金利2%割れの水準が続く状況で、業界全体で毎年2兆円近い予定利率と運用利回りとの逆鞘が発生している現状では、何もしなくても体力を消耗していくのは当たり前といえば当たり前である。生保各社はコスト削減を目指そうとしているが、一度付いた贅肉を削ぎ落とすのは容易ではない。しかし、構造改革をできなかった金融機関は次々と市場の淘汰に遭うことを誰もが認識している。相互会社という壁はあるもののグループ、業界を超えた連携に動きはじめている。

このような変革の動きに対して株式市場はまだ疑心暗鬼のようである。現在、日経平均株価は今年3月末に比べで約30%程度下落した水準にある。昨年度はIT主導の景気回復期待と製造業のリストラによる増益期待から株価は大幅に上昇したのもつかの間、今年度に入ってからは下落基調が続き、せっかく明るい兆しが見え始めた景気がひょっとしたらまた落ち込むのではないかという不安をもたげかけている。確かに昨年までのITバブルはすっかり色褪せてしまった。そごうや生保の破綻で市場のマインドが落ち込んだことも確かである。外部環境を見ても原油高、米国のナスダック市場の下落とプラスの材料は少ない。また投資家動向を見ても昨年の買いの主役だった外人投資家は売り越しに転じ、個人投資家もIT関連株の暴落や昨年度大量に設定された投信のパフォーマンス低迷で、慎重な姿勢を続けている。更に金融機関や事業会社の持ち合い株の売却は今下期も高水準になると予想され、株価の上値を抑える要因になると考えられる。

しかし、日本の企業の変革の動きは止まっているとは思えない。株価の本源的価値が将来企業が生み出すキャッシュフローの現在価値であるとするならば、明らかに現在の動きはその増大に向かっているからだ。また企業の持ち合い株の解消も本質的には企業の財務体質を改善するものであり、プラスに評価されるべきものであると思う。しかしながら株価は需給で決まる。売り手が多ければ株は上がらない。企業の持ち合い株の解消という構造調整圧力が緩和されるまではまだ時間は必要であろう。そしてその時には株式価値の向上に努めている企業とそうでない企業の株価の差はこれまで以上に歴然とするであろう。株式市場が個別の企業、そして経済全般の先行きを表わす鏡であることは今後も変わることはない。


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