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マーケットは語る(三駄寛之の独り言) 1.時価会計の導入と企業経営
stern2000-10-12 (3057)

三駄寛之
大和証券SBキャピタルマーケッツ(株)
金融商品開発部
セールスエンジニアリング課
次長

金融市場は市場参加者の将来への見通し、期待が反映されますから、世の中の新たな流れを先取りしていろいろな動きが起こります。
過去10年間、日本の金融市場はバブル崩壊の負の遺産をしょって低迷を続けてきましたが、ここにきて新たな胎動を感じさせる動きも出てきております。金融市場に携わる者として、金融市場や私の回りで起きている出来事からそんな日本の社会、経済や企業経営への新しい動きを紹介できたらと思っています。

時価会計の導入と企業経営

今9月中間決算から企業の金融商品の時価会計が導入されることになった。これによって、例えば企業や金融機関が保有している持ち合い株式等はこれまでのように簿価でなく、すべて時価で評価することになる。このことの持つ意味は非常に重大である。なぜなら株式を大量に保有している金融機関や企業はその価格変動リスクが直接バランスシート上の株主資本に反映されることになるからである。つまり、政策的な意味があるにしろ株式を保有することはそれなりのリスクがあり、それに見合うリターンを生む投資であるのかを考えなければならなくなったのである。

ビジネススクールのコーポレート・ファイナンスの授業の中では資本コストは単なる配当だけでなく、投資家がどの程度のリターンを要求するか、つまりキャピタルゲインを含めたトータルリターンがどの程度かで決定されると教える。例えばCAPMモデルでは株式の期待リターンは、株式市場全体の無リスク資産に対する超過リターンにその株式特有の値(ベータ値)を掛け合わせたリターンに無リスク資産のリターンを足したものとなる。この株式の期待リターンが株式の発行企業にとっての資本コストとなる。つまり、投資家は単に配当を求めて投資しているのではなく、キャピタルゲインを含めたより高いトータルリターンを発行企業に要求するのである。このリターンは金利に比べてもはるかに高く、資本政策を考える上で株式による資本調達の方がコストは決して安くない。

ところが日本ではこれまで投資家、特に機関投資家といわれる銀行や保険会社等でも政策保有株についてはそのような意識はあまりなかった。その一因はこれらの株式が時価評価されなかったことにある。なぜなら株価の変動が直接バランスシートに影響を与えることがなく、逆に株式市場の右肩上がりが続いたためこれらの保有株が時価評価されないがため含み益となり、本業で収益が上がらなかった場合に益出しの対象として利用され、企業経営のバッファーというプラスの効果をもたらしたからである。

ところが、時価会計制度導入により、損益をすべてバランスシート上に計上することになり、またこれまで認められていた株式のクロス取引による益出し(保有株を市場で一旦売却し、買い戻すことで簿価と時価の差額を利益として計上する手法)が認められなくなった。これによって、政策保有株を益出しのためバッファーとして保有するメリットもなくなり、保有株の価格変動というリスクが顕在化することになったのである。

このことの意味するのは持ち合いに応じて株式を保有していた相手先も単に政策的な意味だけでなく、株式保有リスクを考慮して投資する『普通の投資家』になることである。また、リターンの期待できない株式は売却の対象になることである。実際に株式市場では今こういった金融機関からの大量の売却が続いている。しかも、益出しのためのクロス取引が認められなくなった今、単純な売り切りが今後も続くと思われる。一方でこの売りに対する買い手は今後外人投資家、個人、投信、年金といった『普通の投資家』に期待せざるをえない。

企業経営においては昨今株主重視の経営が叫ばれているが、時価会計への移行は『物いわぬ特殊な株主』から『物言う普通の株主』へのシフトをより一層促すことになる。これによって投資家からはより厳しい目で企業経営が問われることになる。また時価会計の導入で含み益で損を埋めるといったことWindow Dressingといわれた決算操作まがいのことはできなくなり、経営実態がより明確に開示される。この意味でもより厳しく経営の内容を問われることになる。

このように企業経営の株主に対する責任は格段に高まっているし、今後もこの流れは変わらないであろう。また、株主に対する責任を怠ったために甚大な責任を問われる企業、経営者もでてきている。私がSTERNで学んだ時にはファイナンスの理論は新鮮であった反面、日本では通用しないと思っていたが、やっと日本も米国流のファイナンス理論が通じる環境になってきたようである。時価会計への移行が金融マーケット、さらには日本経済の資本構造にも良い意味で大きな変化をもたらすことを期待している。


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